「絵と暮らす」

 


人が絵を始めとする美術作品を買う時、それはどんな理由が多いのでしょうか。部屋のインテリアとして、投資目的として…などなどその理由は様々だと思いますが、私の周囲を見る限り一番目立つ理由は「その作品を好きになったから」というものだと思います。

 「好きになる」という現象は不思議なもので、本当に好きになった人やモノに対して「なぜそれが好きなのか」と問われた時に、これといった理由が浮かばないことがしばしばあるかと思います。理由が浮かばないということはその「好き」という現象を支える後ろ盾になるような明確な原因が無いわけで、こう書いてみると「好き」という現象はなんだか曖昧で頼りない風に感じます。ですがそのパワーは絶大で、人であれモノであれ一度惚れ込んでしまえばそれが絶対に欲しくなるという人は少なくないと思います。うっかり好きな絵を見つけてしまった時、「買わない」という選択肢を取るための理由となるカードはいくらでも出てくると思うのですが、いくら多くの理由を揃えてみても「好き」という現象はそれ一つで全ての理由を吹き飛ばしてしまうことがあるものです。これは絵に限らず、「買う」という行為全てに共通すると思います。理由の数で言ったら「買う」ことよりも「買わない」ための理由の方がはるかに多く出てくるものではないでしょうか。


 さて「絵を好きで買う」ということは買い物の中でも特殊な部類かもしれません。洋服やアクセサリー、食品などの買い物も、もちろん「好き」という基準で選ぶこともありますが、これらはそもそも実用的な役割を持ちます。洋服や食品は必需品でもあり、手持ちがゼロの状態では生活ができません。アクセサリーなどは無くても生活はできますが、自身を着飾りオシャレに見せてくれる役割を持ちます。対して絵などの美術作品は生活の中に無くても特に不自由は無いでしょう。物理的に買った者に対してわかりやすく見返りがあるものでもなく、むしろ家のスペースを占領するだけかもしれません。「美術作品は何の役にも立たない」と平然と口にする人がいますが、わかりやすく物理的な役割を絶対とする人にとっては本当にそう見えるのだろうと思います。もちろん最初に述べた様にインテイリアや投資目的で買う人もいますが、そもそもそういった対象になる作品はインテリアとしての役割、投資対象になれる役割を持つ作品で、そうではない「ただ在る」だけの美術作品の方がこの世にははるかに多いのではないでしょうか。そんな作品を人が手にする時、その理由を問われたら「好きになったから」ということただ一つかもしれません。


 個人的な考えではありますが「好き」という基準でものを選ぶことは多くの人が思っている以上に大切なことなのかもしれません。人の好みというものはその人の人生の経験が形作るものだと思います。人生の経験とは言ってみれば「選択の積み重ね」です。小さなことから大きなことまで自分が選んできた事象の連続だと思います。そういう中で現時点の私が好きなもの、それを自覚し受け入れることは過去から今にかけての自分自身の姿を自覚し受け入れることに他ならないと思うのです。


 そういった「好き」の背景を踏まえた上で私は「絵を買う」という行為はこれ以上にない「自己肯定」であると思っております。買う理由が「好き」以外に皆無に近い状態の中でその絵を選び、安く無いお金を払ってでも自分のものにするということは、イコールで自分の「好き」に対してその絵と同じ金額を払ったということになるからです。そうやって自分を全力で肯定し、手に入れた絵を生活の中に置き、日々眺めて一緒に過ごすこと。そこに選ばれた絵はきっとあなたの人生の中で強くて大きな心の味方になってくれると思うのです。「絵と暮らす」醍醐味はそこにあると私は思います。

 今展は当画廊にご縁のあった11人の作家さんによる展覧会です。どの作家さんの作品も私は本当に大好きで、ご紹介させていただけることが光栄でしかありません。元からの美術ファンの方にはもちろん、これまで美術作品を買ったことがない方や美術の世界がちょっと気になるけれどその扉をどう開いたら良いかわからずにいる、という方にもぜひ見ていただきたいと思っております。そして本当に「好き」になった作品と出会えたら、その喜びを大切にしてくださると画廊主として幸いに思います。

2021年11月 飯田未来子


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企画グループ展

「絵と暮らす」

2021年11月4日(木)〜11月29日(月)

10:00~20:00

火・水曜日定休



【参加作家】(あいうえお順敬称略)

青木香織 / 浅見哲一 / 榎並和春 / 小笠原亮一 / 刑部真由 / 作田富幸 / 高橋亜弓 / 

生江葉子 / 新倉章子 / 東影美紀子 / ひろせまな


Web Galleryも公開予定です。

詳細はくじらのほねホームページをご覧ください。


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